微積と物理 1 平均の速度と瞬間の速度 ~微分~
今回は「微積と物理」と題したシリーズの第一弾です。
本シリーズは、力学・電磁気学などの物理学を題材として、微分積分学の初歩(高校~大学初年度レベル)を学べる内容にしたい思います。
書こうと思えば無限に書けるようなテーマなので、全部で何回になるかわかりませんが、今回と次回の2回分で微分・積分がどんなものかは分かるような構成にしたいと考えています。
今回は速度をテーマに、微分について扱っていきます。
では内容に入ります。
速度(速さ)とは?
速度―それは速い・遅いを表す指標となる、とても身近で、物理が苦手な人にとってもそれほど抵抗感のない物理量でしょう。
自動車には必ず速度計がついていて、車を運転する人ならそれを目安に速度を出しすぎていないか確認することもあるでしょう。
(ちなみに私は滅多に車を運転する機会がありません。いわゆるペーパードライバーです。(苦笑))
ところで、その速度はどのように計算されるものでしょうか。
ここで一つ、小学校の算数で出そうな問題を例に考えたいと思います。
Q : 車が 3 時間かけて 150 km 移動したときの速さは時速何 kmでしょう。
A : よって、 50 km/h (時速 50 km)
このように、ある決まった時間(例えば1時間とか1秒とか、これを単位時間と呼びます)にどれだけの距離進んだか、というのを表すのが速度です。
確かに、同じ時間であれば遠くまで移動できる方が速い、というのは直感的にも納得できますから、この定義は妥当なものと言えるでしょう。
ちなみにこれは、変化の割合(平均変化率)(恐らくこの言葉は中学や高校で耳にしたことがあると思います)の一種です。
ここでは、時間という変数に対する、距離という時間の関数の変化の割合(平均変化率)です。
ここで一旦関数というものについて簡単に確認しておこうと思います。
関数(函数)とは
関数とは、ある値に対し、何らかの処理をして、ある値を返すものです。
例えば、という関数を考えると、
を代入すると を、
を代入すると を返します。
このようにある変数の値に対応して、の値が定まるような関数について、「はの関数である」といいます。
中学の教科書などでは関数と表記されていますが、
元々は函数と書かれ、現在でも函数と表記されることが多々あります。
英語で関数を意味するfunctionの頭文字をとって、の関数をと表記することもよくあります。
この表記を用いると、に具体的な数値を代入したときに関数が返す値を表すときに便利です。
例えば、のときに関数が返す値はのように表記できます。
今回の記事で扱っている、距離と時間について考えると、例えば、1時間後に 50 km、4時間後に 200 km、などのように、任意の時間を指定することによって距離が定まるので、距離は時間の関数であるといえます。
平均の速度と瞬間の速度
さて、先ほどの例題に話を戻します。
計算の結果、車の速さは 50 km/h と求まりましたが、現実的には、ずっと 50 km/h で走っていたとは考えられません。
というのも、実際には赤信号では止まったり、 60 km/h まで加速したりすることもあるでしょう。
この 50 km/h というのはあくまで平均の速度というわけです。
つまり、一定の速度で走っているとみなしたときの速度を考えているわけです。
これに対し、速度計の指している時々刻々と変化する速度は瞬間の速度と呼ばれます。
ところで、その時々刻々と変化してしまう瞬間の速度はどうやって求めればよいでしょうか。
その問題を解決する鍵となるのが、今回の主役である微分です。
平均の速度から瞬間の速度へ ~微分~
では、具体的に瞬間の速度を求める方法について考えます。
考え方は平均の速度を計算するときのものをベースにします。
平均の速度の計算において用いる時間をどんどん小さくしていけば、どんどん瞬間の速度に近づいていきそうです。
例えば、先ほどの例のように、3時間で進んだ距離を基に求めた速度は平均の速度に他なりませんが、1秒間に進んだ距離を基に求めれば、平均の速度ではあるものの、瞬間の速度に近い値を得ることができそうです。
この時間を極限まで短く、すなわち0に近づけていけば、それはまさしく瞬間の速度と言えるでしょう。
では、そのことを数式で表していきたいと思います。
まず平均の速度を移動した距離とその移動にかかった時間を用いて表すと、
\begin{align}
\bar{v}=\frac{\Delta x}{\Delta t} \tag{1}
\end{align}
となります。
先ほどの例では、 3 時間かけて 150 km移動したので、は、は、そしてはとなります。
次に、時間を極限まで短くしていく、つまりを極限までに近づけることをします。
これを次のように書きます。
\begin{align}
v=\lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta x}{\Delta t} \tag{2}
\end{align}
は極限を意味するlimitの頭3文字で、はを極限までに近づけることを意味しています。
ここで、この計算で求められるものはもはや平均の速度ではなく瞬間の速度なのでだったものをに書き換えました。
極限の厳密な定義として論法、論法というものがありますが、この記事では割愛します。
これらについて解説しているページはたくさんあるので、興味のある方は各自でお調べいただいても良いですし、いずれこのブログでも紹介したいと思います。
ここでは、を0.1、0.01、0.001、…のようにどんどん小さくしていくぐらいのイメージで構いません。
このように、微小な変数(ここでは時間)の変化に対する、関数(ここでは距離)の変化の割合を微分と言います。
つまり、(瞬間の)速度は距離を時間で微分したものです。
ところで先ほどの式は次のように書かれます。
\begin{align}
v&=\frac{dx}{dt} \tag{3}\\
&=\frac{d}{dt}x \tag{4} \\
&=\dot{x} \tag{5}
\end{align}
式はをで微分することを書くときに最も一般的な記法です。
式はで微分するという操作をという関数に作用させることを表現した書き方です。
この書き方を用いるとの部分がより複雑になったときに応用がききます。
例えば、がに置き換わった場合、
\begin{align}
v=\frac{d}{dt}\left(-x+\frac{x^2+3x}{x-2}\right)
\end{align}
と表せます。
こののように、ある関数に作用させると微分をするようなものを微分作用素と言います。
ほかにも時間の関数ではなく、より一般的な関数をで微分する場合は、という書き方がよく用いられます。
計算例
最後に具体的な計算例を一つ示しておきたいと思います。
例えば、距離が、で表されるなら、
\begin{align}
v&=\lim_{\Delta t \to 0} \frac{(t+\Delta t)^2-t^2}{\Delta t}\\
&=\lim_{\Delta t \to 0} \frac{(t^2+2t\Delta t + \Delta t^2)-t^2}{\Delta t}\\
&=\lim_{\Delta t \to 0} \frac{2t\Delta t + \Delta t^2}{\Delta t}\\
&=\lim_{\Delta t \to 0} \left(2t+\Delta t \right)\\
&=2t+0\\
&=2t
\end{align}
となります。
後日グラフ等追加しようと思いますが、ひとまず暫定版として本記事を公開します。
11/4 更新 (早く第二弾書け)