危険半円と可航半円 ~台風15号はなぜ千葉県に甚大な被害をもたらしたか~
この度、台風15号により被災された方、特に甚大な被害の出ている千葉県、伊豆諸島にお住まいの方々にお見舞い申し上げます。
そして、一刻も早い復旧をお祈り申し上げます。
さて、今回はなぜ千葉県で大きな被害が出たのかという話を含め、危険半円と可航半円について解説したいと思います。
まず、危険半円と可航半円について説明する前に、台風がどんなものであるかということについて説明しておきたいと思います。
台風とは
台風とは、熱帯低気圧のうち、北西太平洋上(赤道以北、東経100°~180°)にあって、最大風速が風力8(34 ノット、約17.2 m/s)以上のものを指します。
熱帯低気圧とは、その名の通り、熱帯で発生する低気圧です。
海面水温の高い赤道付近の海上で上昇気流が発生し、次々と積乱雲が発達し、それらが渦を作ることで出来ます。
特徴としては、綺麗な同心円状の構造を持つことです。
気象庁の台風情報で、強風域や暴風域が円で表示されていますが、このように表示されるのは熱帯低気圧が同心円状の構造を持っているためと言えるでしょう。
危険半円と可航半円
ここで本題の危険半円と可航半円の話に入りたいと思います。
台風は、先述の通り低気圧の一種ですから、周囲から中心に向かって風が吹き込んでいます。一般に北半球では反時計回りに風が吹き込んでいます。(図中の赤い矢印)
そのため、右側では台風の進行方向と風向が概ね一致し、風が強くなります。
船が台風の中心から遠ざかろうとしても、強い向かい風を受け、台風の前方に流されやすいため「危険半円」と呼ばれます。
逆に、左側では台風の進行方向と風向が概ね反対になるので、相対的に風が弱くなります。
船が台風の中心から遠ざかろうとするときに、追い風を受け、台風の後方に流されるため、「可航半円」と呼ばれます。
風の強さをボールの速さに例えると、危険半円は動く歩道に乗りながら前方にボールを投げていて、反対に、可航半円では後方にボールを投げているようなイメージです。
数式で表すと、台風の中心に向かう風の風速のベクトルを 、台風の移動速度のベクトルを としたときに、その風速のベクトルはとなります。
ここで、とすると、危険半円の風速はおおよそ となり、可航半円の最大風速はおおよそ となります。
これらの例えや数式からわかるように、台風の速度が速ければ速いほど、危険半円の最大風速が大きくなる傾向があります。
先日の台風15号の上陸時の速度はおよそ25 km/hでしたが、これを秒速に直すと約7 m/sです。
つまり危険半円では台風そのものによる風にこの7 m/s分が上乗せされ、逆に可航半円では差し引かれたというわけです。
冒頭でも述べた通り、この台風15号により、千葉県で甚大な被害が出ました。
(出典:気象庁)
実際、経路図からわかるように、千葉県は一部を除き危険半円に入っていました。
そしてその千葉県では、最大風速、最大瞬間風速ともに、千葉県の各地で観測史上1位の値を更新するほどの強い風が吹きました。
(出典:気象庁、下記画像を基に佐藤が加工)
この強い風により、送電線などが倒壊し、千葉県や伊豆諸島では停電などによる二次災害で、今もなお被害は拡大しています。
ちなみに千葉市で観測した最大瞬間風速57.5 m/sというのはkm/hに換算すると207 km/hです。
これは開業当初の新幹線のスピードに匹敵します。
つまり、壁や天井のない新幹線に乗っているような状態というわけです。
想像するだけでも恐ろしい世界です。
ここまで危険半円の恐ろしさについて述べてきましたが、その一方で可航半円であっても決して安全なわけではありません。
可航半円であっても中心付近は特に風が強く、危険であることに変わりありません。
ただ、危険半円ではより警戒が必要で、特に中心から離れたところでも風が強くなりやすいということをお伝えすべく、今回の記事を書きました。
最後に、改めて千葉県をはじめとする被災された各地域の復興をお祈り申し上げます。